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夜行 | 森見登美彦
43歳 | 女性 | 自営業 | ぷうこ
作者が学生時代を過ごした京都を舞台にした小説に定評のある森見登美彦さんの「夜行」は、今までの「ユーモラス・腐れ大学生・ファンタジー」といったいわゆる森見ワールドから脱却した作品です。
過去作の「きつねのはなし」や「宵山万華鏡」に近い方の森見ワールドとも言えば良いのか、静かに背筋を這い上がってくるような恐怖を感じる怪談のような雰囲気が全編を支配しており、ゾクゾクしながらもこの先にどんな展開が待つのかが気になり、途中で本を読むのを中断できないほど。
ストーリーは学生時代に鞍馬の火祭りの夜に失踪したかつての仲間と、「夜行」という連作の銅版画の作者を巡るものなのですが、語り部を変えながら進んでいく手法も魅力的。
実際に京都へ行ったことがある人ならば、賑やかな街中から少し入れば鬱蒼とした木々が連なる鞍馬山があること、京都の夜はどこか物の怪が潜んでいるような独特の空気感を持つことなどが体感としてわかるので、より一層物語に入り込むことができるかと思います。
ミステリーのようでいて青春小説のようでもあり、かつ怪談というこの作者にしか書けない世界観がギュッと凝縮されており、森見ファンはもちろんのこと、この作者の作品に初めて触れるミステリーファンにもぜひ読んでいただきたい傑作です。