自分にとって何が大切かを見つめ直すきっかけをくれる『旅をする木』

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旅をする木 | 星野道夫


58歳 | 女性 | 主婦 | はるはる

 時間に追われ、人間関係に疲れ、ストレスフルな暮らしを余儀なくさせられている現代社会に生きる私達。しかしよく考えてみれば、それは飢えや寒さや暑さから守られた便利で快適な暮らしです。
 そんな私達にとって「アラスカ」という土地は過酷で、そこに人の暮らしがある事に不思議さえ感じますが、『旅をする木』の作者星野道夫は、アラスカに魅せられ、アラスカに移住した写真家です。そして彼は、テレビ番組「どうぶつ奇想天外」の取材のために滞在していたロシアのカムチャツカ半島で、ヒグマに襲われ食いちぎられるという無残な亡くなり方をした人でもあります。
 『旅をする木』は、彼が愛したアラスカをはじめ、文明社会とは隔絶された環境に暮す人々とのふれあい、彼が感じた事が、優しい言葉で紡ぎ出された一冊です。
 彼が紡ぎ出す言葉達は、人間にとって、と言うより、自分にとって何が大切かを考えるきっかけを与えてくれます。
 そしてこの問いは、人間全体ではなく自分探しから始まった故に、とても現実的で、しかし自分は大きな自然の中にあってはほんの小さく一瞬の存在でしかない事を、なぜか悲観的ではなく、謙虚さと逞しさで感じさせてくれる気がします。過酷なのに穏やかな、心が震える世界がここにあります。