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野菊の墓 | 伊藤左千夫
31歳 | 男性 | 会社員 | さかき
若い少年少女の儚い恋の物語を綴った名作です。片田舎で展開する青春ものな点に共感できます。主人公の政夫の恋の相手である民子は従兄弟という関係で、幼い頃から慣れ親しんだ仲です。相性はよく、一緒になればきっと幸せになれたのに、社会の事情や家族の意見もあってそれとなく仲を引き裂かれてしまう悲痛な展開は印象的です。そんな中でも二人が互いを思い合い、実に真心のある男女だったと分かる点には癒やしも感じます。
同じ家にすむ二人は、田舎の山で野良仕事もともに行う仲となっています。私生活をともにする中で互いが互いの異性としての魅力に惹かれていく過程を緻密に描く点には引き込まれます。二人が山で自然を目にした時、政夫が山に咲く野菊の儚き美しさを民子のようだと比喩表現して告白するシーンにはドキドキしてキュンキュンも来ます。自分は野菊が好き、そして民子は野菊のよう、そう伝えるで、詰まりは野菊同様民子が大好きということになります。恋に奥手な少年は相手の目を見て直接的な告白が出来ず、花にたとえておしゃれに、そして照れ隠しも兼ねて告白するのです。この点には文学的な仕掛けも見られて良いです。
無理やりお見合いに出され、その後は心身を病んで若くして死んでしまう民子ですが、最後まで政夫の思い出の品を握っていたという点に泣かされました。
悲しい最後となりましたが、人の思いの本気が見て取れるもので良かったです。大変古い作品ではありますが、現代人にも響く名作だと思います。