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ツナグ | 辻村深月
34歳 | 女性 | 会社員 | yuzu
辻村深月の描く死者と残された者達を繋ぐファンタジー短編小説です。
短編小説ではありますが、主人公やそれを取り巻く人物の時間軸は繋がっている物語になっています。
主人公の使者(ツナグ)は、死んだ者と残された者を引き合わせる事が出来る不思議な能力のある青年。しかしその再開にはいくつか条件があり、生きている者がその再会を使えるのは一生で一度のみ、会えるのは一晩だけ、そして望んだ死者と会えるかは死者もその人との再会を望んだ場合のみ。死者もまた一度のみしかこの機会を与えられる事はありません。
突然死のタレントに会いたいと願う冴えないOL・母に癌告知が出来なかった頑固な息子・親友への嫉妬から小さな殺意を抱いた女子高生・帰らない婚約者を待ち続けるサラリーマン。各話の主軸となる人物たちには確かな人生と死者への想いあります。死者と会いたい理由は様々、どの人物の想いも胸に響いて、死者が消えてしまい見えるそれぞれの景色は、清々しさ、優しさ、懺悔、決心、と様々な終わりとなっていますが、その全ての想いに共感できて一つ一つの話で生まれる感情が読み手も変化していき、忙しく涙が溢れてしまう物語です。
主人公の使者(ツナグ)は、この物語の中でただの使者としての役割だけでなく、彼もまた彼自身の人生と過去を背負って生きている人間としてしっかりと描かれています。この主人公の話は、各話を通して語られていき、一本の物語になっていきます。彼の物語もまた悲しくも温かく切ない物語でした。
松坂桃李さん主演で映画化もされ映像でも素晴らしい作品でしたが、個人的にはこの作者の風景描写や人物の心理描写の胸に来る言葉選びが素晴らしいと感じたので、是非小説で読んでもらいたい作品です。