「彼女がその名を知らない鳥たち」一人の女性を守り抜く形は、人それぞれ

阿部サダヲさん、蒼井優さん主演で映画化もされた作品です。
無職の十和子は、不潔で雑な性格の佐野陣治とだらだらと怠惰な生活を送っています。ある日から、時計の修理のため何度か会っていた水島との関係が始まり、彼との行為に溺れていきます。
この作品の見どころは、爽やかな性に関する描写と、陣治の十和子への思いの強さです。既婚者である水島との不倫を扱っているため、性行為の描写が多くみられますが、けしていやらしくなく、しかしそれを止められない二人の様子が鮮明に伝わってきます。今まで読んできた作品での描写は直接的なものが多かったため、爽やかな描写は衝撃的でした。
陣治の描かれ方ですが、タバコのためいつも汚い咳をしており、十和子と顔を合わせれば仕事の愚痴ばかり、十和子がどこにいるのか気になりうんざりするほど電話をかけてきたり、部屋は埃だらけで物も散らかっている‥と読んでいる限りは何とも不快な人物として描かれています。しかし、浮気に気づかぬふりをしながら十和子の行いをいつも心配し見守る、実は十和子への想いが強い人物です。秘密が明かされた後は物語は一気に進み、ラスト2ページは衝撃的です。映画化されたキャストの顔を思い浮かべながら読むのも楽しいと思います！