本当にフィクション?TDLのキャストが主人公の「ミッキーマウスの憂鬱」。

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ミッキーマウスの憂鬱 | 松岡圭祐


32歳 | 女性 | 自営業 | りさ

ディズニー好きならば思わず手に取ってしまうタイトルの本書。実は、あのディズニーランドのバックステージを舞台にした完全フィクションの小説なのです。しかし不思議なことに、読み進めると本当にこうした裏側がディズニーにはあるのではないかという錯覚に陥ります。それもディズニーランド内の描写が詳細で、パレードのルートやアトラクションごとのキャストの台詞なども事実に基づいたものであるためでしょう。作者の取材力の高さが窺えます。主人公の視線を通して一つずつ明らかになるバックステージの秘密。ディズニーランドに詳しい人であればあるほど面白い内容だと思います。
さて、本書の主人公・後藤大輔はキャストの採用試験の段階からかなりのポンコツ君です。試験中にミッキーへの着ぐるみ発言はダメだろ、と一般人の私でもツッコミを入れたくなりますが、笑顔を絶やさない点のみ評価されて晴れて夢のキャストに合格します。彼のディズニーランドで働くことへの無邪気な憧れは、世間を知らない若者らしいもので、いい大人の私はなんとなくむず痒い気持ち。この彼がディズニーランドの裏側で様々な困難に立ち向かいながら、夢の国の裏側は夢の世界ではなかったことを知っていきます。そして、キャストの心構えを理解し、裏方であることのプライドを持ち始めて成長していく過程を、私たち読者は同僚のような目線で見守ってゆくのです。大輔の成長に、読後はとてもさわやかな気分になれました。