新しい時代の清貧の在り方を描いた「清く貧しく美しく」

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清く貧しく美しく | 石田衣良


29歳 | 男性 | パート・アルバイト | m

冷たい世の中とは対照的に、小さなアパートで身を寄せ合いながら、お互いをほめることにより何とか生き抜こうとする恋人二人のお話です。現代の多くの若者が経験するであろう挫折感、敗北感、惨めさ、といったことを上手に表現しながらも、決して暗いだけの物語にならず、どこか希望とさわやかさを感じさせます。その理由は、主人公とその恋人がお互いを思いやり、優しい心を忘れず、人間としての尊厳を失わないように生きていこうと背筋を伸ばして生きる姿にあると思います。物語の中で、様々な葛藤があります。アルバイトから正社員としての道、新しい出会い、本当に自分が夢見てやりたかったことが見つかる、などの摩擦を経て、自分はどう生きていきたいのか、主人公二人は自分に問うことになります。そこで浮かび上がる社会の欺瞞は普遍的でありながら、現代特有のものとして読む者の共感を呼びます。主人公の恋人、日菜子は「貧しくとも、自分の心と体を使って生きていきたい」というようなことを物語の最後のほうでいいますが、とても胸を打たれた言葉でした。皆が経済的な安定と引き換えに自分の魂を差し出すしかない世の中で、自分を見失わず生きていこうとする二人の志に感動させられる作品です。