世界最大手フィルム製造メーカーが没落する姿を描いた「象の墓場」について

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象の墓場 | 楡周平


43歳 | 男性 | 自営業 | pukuripo

1990年代から2000年代にかけて実際に世界中で起きたアナログからデジタルへの技術革新ですが、この小説は世界最大手のアメリカのフィルム製造メーカーが経験した没落の経緯を詳しく描いています。世界的な超名門企業と言えども技術革新についていけなかったり、技術革新に抵抗したけれど無残にもその波に飲み込まれてしまったらどうなるか、それがものすごく気になって私は最初から最後まで一気に読んでしまいました。

今では当たり前になったデジタルカメラですが、その前はフィルムのカメラでした。フィルムのカメラではフィルムを買って、現像をして、焼き増しするという3つの工程が必要でした。フィルムメーカーはこの3つの工程でそれぞれお金儲けをしていたのです。しかしデジタルカメラではフィルムを買わなくても良いですし現像の必要もありませんし、PCやスマホやモニタで見るだけなら焼き増しの必要もありません。それじゃぁフィルムメーカーはデジタル社会でどのようにしてお金を稼ぐの?というのが、この小説で描かれる中心的なストーリーです。

世代的には30代以上ならフィルムのカメラを知っているのでこの小説にはまると思います。デジカメを初めて触ったときの衝撃や感動を今でも覚えているでしょうし、その利便性から二度とフィルムのカメラを触らなくなった人も多くいるでしょう。この小説はその辺りの心変わりがとても早い消費者心理や、フィルム企業が延命の為に仕方なくデジカメ市場に参入する際の葛藤が描かれていて経済小説でありながらも手に汗握るような展開になっています。特にカメラ好きのは必見だと思います。