おすすめする本
火花 | 又吉直樹
30歳 | 女性 | 自営業 | 葱
芥川賞受賞作となった又吉直樹さんの「火花」は、芸人初の芥川賞作家を生んだきっかけの一冊としてベストセラーとなり、多くの方が手に取ったのではないでしょうか。だからこそ「前評判が先行し、話題性だけで売れている本なのでは?」と失礼なことを思ってしまったのですが、実際に読んでみて割り切れない感情におかされ、二回、三回と読み返すうちに「面白い作品だ」と認めざるを得なくなりました。
お笑い芸人として常に自分の思う「面白さ」を追及している主人公・徳永と孤高の先輩・神谷の関係性を描く今作は、あちこちに「奇妙なねじれ」が仕込まれています。突然踊り出したり歌いだしたりする不思議な挙動、メールの最後に必ず添える意味のない一文、師弟関係を結んでいながら具体的にお笑いの話をすることはほとんどない二人の関係など。そして、それらには最後まで説明がありません。
だからこそ、ふたりの挙動一つひとつに「天才にしかわからない面白さなのかもしれない」と思ってしまいます。しかし物語が進むにつれ、そうした考えは虚構にすぎないことが読者にも伝わっていきます。
ラストシーンには賛否がありますが、堕ちるところまで堕ちた結果「かっこよくて面白い神谷さん、憧れの神谷さん」ではなくなってしまったことを知らしめる、悲しさと可笑しさの入り混じったラストだと感じました。ただきらきらと輝かしいだけではない憧れの形を描いた、大人のための青春小説です。